介護の仕事をしてると高齢者の方々から代筆を頼まれることがよくあります。伝言から買い物のメモまでと多岐にわたります。これらは特に問題はないのですが、契約書等の自筆の代行について、代筆者が契約当事者である場合はそうは簡単にいきません 代筆の理由を聞くと、「手が震えて、手が痺れてあるいは握力が弱く、 これまでのように筆記具が握れない」、などの返事が返ってきます。 自筆の必要性を説明し多少の無理をしてご自分で書いていただくのですが、これまでのように思い通りに字が書けないことのもどかしさや落胆が毎回伝わってきます。 私も学生時代、同じような思いをしたことが2つありました。大学1年の初めての前期試験、 試験官が私の斜め前に立ち止まって私を見下ろしていました。 気配に気づいて見上げると、「君、答案用紙を真っすぐにして書きなさい。」でした。 左利きの私は用紙を右下がりにおいて文字を書く癖がありました。それがその試験管には異様に見えたのでしょう。文字を書くのが人よりも遅く下手なことは自覚していましたし、それでも特に問題もなくこれまで通ってきたのですが、私の文字を書くことへのトラウマの最初の できごとでした。 今から40年以上も前のことです。右手文化に直面して受けたカルチャー面での1番目のショックでした。まるで不正を指摘された様な気がしてとても恥ずかしかったことを覚えています。 次に私は文字を書く上でさらに大きな問題に直面します。これは深刻でした。大学2年の秋、友人達と一緒に学内の法律研究室に入室します。研究室での勉強は、与えられた課題に対して法律論を展開して自分の結論の正当性を論証していくというものです。 2時間以内に2課題に答えていく記述式です。およそ便せん用紙10枚以上にはなる2時間の 筆記作業は私には過酷な作業でした。筆記具はペン又は万年筆に限定されていました。 私は万年筆になると筆記速度が遅くなりました。さらに1時間以上も連続して文字を書いていると少しずつ手に不随意運動が出てくる事実に気づきました。 利き手の左肩にも障害があってそのせいかはわかりませんが、フィジカル面からの 2番目のショックでした。 知識もなく、今のようにインターネットなどのない時代です。そこで、万年筆の同軸を持ちやすいように削ったりパテで盛ったりなど工夫を繰り返していました。やっとの思いで見つけた自分なりの解決策はドイツ製のM社の万年筆に手を加え、ペン先を横向きにして書く方法でした。 これで少しの改善はできました。それでも勉強会の後、思い通りに文章が書けなかった日、 内容ではなく友人よりも書けた枚数が少ないことに悶々とした気持ちで、新宿から幡ヶ谷の アパートまで甲州街道を数時間かけて歩いたことが今も記憶に残っています。折しも時節は年の暮れ、下町を通ると「およげたいやきくん」の歌が流れていました。 そんな私の経験も伏線に、何か適切な補助具があれば手の震えや痺れや握る力の弱くなった 人でも、何とか自分の名前が書けるようになれるのではとの思いから、10年近く前に、 この「きのこグリップ」の原型となるペングリップを作りました。 コンセプトは2つ。 1つは用紙を斜めにしないこと。体幹に対して横書きは水平に、縦書きは垂直に書くこ。 2つ目は脱着が容易であること。 文字を書くという作業はとても複雑な身体動作です。すべての人のニーズに応えることは できません。しかし100人のニーズの1つにでも応えることができたらこの筆記補助具は意味が あるものと思います。 筆記補助具「きのこグリップ」は、幾多の試作や検証を経て多くの人たちの協力で出来がり ました。これらのすべての方々のお名前は、敢えてここには挙げませんが、この紙面を借りて 慰労と感謝の思いを込めてお礼を申し上げます。 K.佐々木 |
私は膝の手術を3回行い、最近は両手の関節が曲がりにくくなってきました。そこでNPO福祉用具
ネットに相談したことから、NPO会員の佐々木さんを紹介してもらいました。
佐々木さんの特許を使用して、手指に力が入らない人やさまざまな病気やケガでペンがしっかり
持てない人の為に筆記用補助具の開発にチャレンジしようと決意しました。
そして長崎大学やNPOに協力してもらい、調査研究を経て、施設での実施検証など2年がかりで
出来たのが「きのこグリップ」です。
これから、加齢や病気等により、自筆サインや手紙を書いたり、日記をつけたり、書道をしたり、
絵を描いたりと今まで出来ていたことをあきらめる事が多くなります。
でも、あきらめずにもう一度やってみませんか、
「あなたの書きたいをサポート」この想いで きのこグリップを作りました。
決して字が上手に書ける道具ではありません。やる気を後押しする補助具です。あなたの
お役に立てれば嬉しいです。
有限会社ラック 久保和也
〒820-0083
福岡県飯塚市秋松947
TEL 090-7386-9393(担当:久保)